FX-AUDIO HAC-03Jのオペアンプを交換!NJM2068DDで音質は変わるのか?

テレビの音量連動と音質を両立したい!

我が家では、REGZA 65M550Mという65型のテレビを使っている。

テレビの音を我が家のオーディオシステムで再生するには、大きく分けて2つの方法がある。

  1. テレビのステレオミニ端子からRCAケーブルで接続する
  2. テレビからS/PDIFでデジタル出力し、DACに入力する

オーディオ好きとしては、俄然、2番のデジタル接続でいきたいところだ。

しかし、ここには大きな問題がある。

テレビのリモコンで音量を変えても、外部オーディオシステムの音量が連動してくれないのだ。

いや、ちょっと待ってほしい。

iOS端末からAirPlayでApple TVに接続したときは、Apple TVからデジタル出力した音声でも音量を連動させられる。それなのに、なぜテレビのデジタル音声出力では同じことができないのか!

……と、長年もやもやしていた。

もちろん、テレビのステレオミニ端子からアナログ接続すれば、テレビの音量と連動する。だが、この方法ではテレビに内蔵されたDACでデジタル音声をアナログ変換することになる。

音質を重視するなら、できれば外部のDACを使いたい。

かといって、デジタル接続にすると音量調整が面倒になる。

この「音質」と「使い勝手」の両立ができないものかと、長年悩んでいたわけだ。

そんな悩みを解決してくれたのが、FX-AUDIOの「HAC-03J」である。

FX-AUDIO HAC-03Jとは?

HAC-03Jは、HDMIのARC機能を利用してテレビのデジタル音声を取り出し、アナログ音声として出力する小型DACだ。

しかも、単にデジタル音声をアナログ変換するだけではない。テレビのリモコンによる音量操作にも連動してくれる。

ここで登場するのが、HDMIの「ARC」と「CEC」という2つの仕組みだ。

ARCとCECとは?

まず、ARCは「Audio Return Channel」の略で、日本語では「オーディオリターンチャンネル」と呼ばれる。

HDMIは映像や音声を機器に送るための規格だが、ARCを利用すると、テレビ側からHDMIケーブルを通じて音声を送り返すことができる。

例えば、テレビに接続したゲーム機や動画配信端末の音声を、HDMI ARC対応のオーディオ機器へ送る、といった使い方ができるわけだ。

一方、CECは「Consumer Electronics Control」の略で、HDMIで接続した機器同士を制御するための仕組みである。

CECに対応した機器同士であれば、テレビのリモコンによる音量操作や電源操作などを、接続先の機器に連動させられる。

つまり、今回のHAC-03Jでは、ざっくり言うと次のような役割分担になっている。

  • ARC:テレビからHAC-03Jへデジタル音声を送る
  • CEC:テレビのリモコンによる音量操作などをHAC-03J側へ伝える

この2つの仕組みを活用することで、テレビの音声をデジタルのままHAC-03Jへ送りつつ、テレビのリモコンで音量を操作できるようになる。

なお、実際の動作はテレビ側のHDMI設定や機器同士の対応状況にも左右されるため、すべてのテレビで必ず同じように動作するとは限らない。

DACチップにもこだわっている

HAC-03Jは、DACチップにもこだわっている。

搭載されているのは、ESS Technology社製の「ES9018K2M」だ。

メーカー公表値では、DNR(ダイナミックレンジ)が125dB、THD+N(全高調波歪み率+ノイズ)が-120dBとされている。

もちろん、DACチップのスペックが優れていれば、それだけで最終的な音質が決まるわけではない。電源回路やアナログ出力回路、実装方法なども含めて、製品全体としての性能が決まる。

それでも、このサイズの製品にES9018K2Mを搭載しているのは、なかなか魅力的だ。

ARCでテレビからデジタル音声を取り出し、テレビのリモコンで音量を操作しながら、高性能なDACチップでアナログ変換する。

まさに、私が求めていた「いいとこ取り」である。

さすがFX-AUDIO。かゆいところに手が届く製品を作ってくれる。

ということで、HAC-03Jを気に入って使っているわけだが……。

オーディオ機器を使っていると、どうしても気になってくるものがある。

そう、ネジ穴だ。

ネジ穴を見ると、開けたくなるんですよね。

ということで、HAC-03Jを分解してみることにした。

HAC-03Jを分解してみた

ケースを開けて基板を眺めてみると、目に飛び込んできたのが、DIP-8ピンのソケットに載ったオペアンプだった。

これはもう、「どうぞオペアンプを交換してください」と言わんばかりではないか。

こういうところも憎いね、FX-AUDIO。

搭載されていたのは、Texas Instruments社の「NE5532P」だった。

NE5532は、オーディオ回路で広く使われている定番の低雑音オペアンプである。派手さはないものの、性能とコストのバランスに優れた、いわば優等生だ。

音の傾向については、太く落ち着いた音と評価する人もいる。

ただし、オペアンプそのものに決まった音のキャラクターがあるというより、実際の音は周辺回路や動作条件などによっても変わる。ここは交換して聴いてみないと分からない部分でもある。

それにしても、せっかく交換できるソケットが付いているのだ。

交換しないのは失礼に値する。

試してみたくなるのがオーディオ好きというものである。

交換するオペアンプを選ぶ

さっそく手持ちのオペアンプを探してみた。

ところが、ちょうどよいものがない。

1回路入りのOPA604は持っていたのだが、今回のような2回路入りのオペアンプを使用する場所には、そのままでは使えない。

ということで、新たに購入することにした。

今回選んだのは、日清紡マイクロデバイス(旧JRC)の「NJM2068DD」である。

選んだ理由は、NE5532Pよりも低雑音・広帯域な特性を持ち、価格も手頃だからだ。

ただし、オペアンプは単純にカタログスペックが上ならよいというものでもない。回路との相性や安定性、電源電圧、負荷条件なども考慮する必要がある。

今回の選定では、そうした点も踏まえつつ、バイポーラ入力のオペアンプであることにも注目した。

HAC-03Jのオペアンプは何をしているのか?

まず、HAC-03Jに搭載されているES9018K2Mは、デジタル信号をアナログ信号へ変換するDACチップだ。

しかし、DACチップから出てきた信号を、そのまま外部へ出力すればよいというわけではない。

DACの後段には、信号を適切に扱い、アナログ出力として取り出すための回路が必要になる。

HAC-03Jでは、この部分にNE5532Pが使われている。

メーカーの製品情報でも、搭載オペアンプは「差動変換オペアンプ」として説明されている。

差動変換とは、2つの信号の差を取り出す処理のことだ。

例えば、入力Aと入力Bがあったとき、理想的な差分回路では、

出力 = ゲイン ×(入力A − 入力B)

という関係になる。

2つの信号に共通して含まれる成分を抑え、両者の差分を取り出すことができる。DACの出力回路などでは、このような差動信号を扱うことがある。

ただし、実際にどのような回路構成になっているか、どの程度のゲインや抵抗値が設定されているかによって、最適なオペアンプの条件は変わってくる。

ここで、オペアンプ選びの話に戻ろう。

バイポーラ入力とFET入力、どちらがよいのか?

オペアンプには、入力段のトランジスタの構造によって、大きく分けてバイポーラ入力とFET入力のものがある。

それぞれに特徴があるため、用途に応じて選ぶことが重要だ。

バイポーラ入力のオペアンプは、入力段にバイポーラトランジスタを使用している。低雑音化しやすい製品が多く、オーディオのような微小信号を扱う回路でも広く使われている。

一方、FET入力のオペアンプは、入力インピーダンスが非常に高く、入力バイアス電流が小さいという特徴を持つ。

入力側の抵抗値が大きい回路や、信号源への負荷を小さくしたい回路では、FET入力が有利になる場合がある。

ただし、「差分回路だからバイポーラ入力が必ず最適」とまでは言えない。差動変換回路であっても、入力信号のインピーダンスや抵抗値、必要な雑音性能などによって最適な選択は変わる。

それでも、今回は低雑音性能と価格のバランスを重視し、バイポーラ入力のNJM2068DDを選ぶことにした。

巷では、高価なFET入力オペアンプに交換する改造例も見かける。

もちろん、それらが悪いというわけではない。

ただ、電気電子工学を専攻した身としては、単に高価なものや評判のよいものを選ぶのではなく、回路の用途やオペアンプの特性を考えながら選びたいところだ。

NJM2068DDの「DD」とは?

NJM2068DDを選んだもうひとつの理由が、型番の末尾にある「DD」だ。

私は、このDDが付いたオペアンプが大好きなのである。

例えば、以前から気になっていたNJM2114DDなどもそうだ。

NJM2068DDは、通常のNJM2068と比べて、入力換算雑音電圧の上限を規定した選別品である。

つまり、製造された個体の中から、雑音性能が所定の基準を満たすものを選別しているわけだ。

単に「DDだから音がよい」と断定できるわけではないが、少なくとも雑音性能について一定の基準が設けられている点は魅力的だ。

高価なオペアンプを購入するのも楽しいが、手頃な価格のオペアンプであっても、こうした選別品を選ぶという考え方は面白いと思う。

私は、価格だけで判断するのではなく、こうした仕様にも注目してオペアンプを選ぶようにしている。

NE5532PとNJM2068DDの性能を比較

では、実際に両者のスペックを比較してみよう。

項目NE5532PNJM2068DD
回路数2回路2回路
入力段バイポーラバイポーラ
入力換算雑音電圧約5 nV/√Hz(代表値)約4.2 nV/√Hz(代表値)
スルーレート約9 V/µs約6 V/µs
利得帯域幅積約10 MHz約27 MHz
入力バイアス電流約200 nA(代表値)約150 nA(代表値)

※代表値を中心とした比較。測定条件やメーカーの仕様表によって値は異なる場合がある。特に雑音電圧は、同じ測定条件で比較することが重要だ。

このように、NJM2068DDは入力換算雑音電圧が低く、利得帯域幅積も大きい。

一方、スルーレートについてはNE5532Pのほうが大きい。したがって、すべての項目でNJM2068DDが勝っているわけではない。

それでも、今回重視した低雑音性能と帯域の広さという点では、NJM2068DDは魅力的な選択肢だ。

ただし、ここでひとつ注意しておきたい。

スペック上の差が、そのまま人間の耳で分かる音質差になるわけではない。

可聴帯域での信号処理において、オペアンプの性能が十分であれば、どちらも優れた結果を得られる可能性がある。

実際の音は、オペアンプ単体のスペックだけでなく、周辺回路を含めた総合的な条件で決まるのだ。

NJM2068DDに交換してみた

ということで、さっそくオペアンプを交換する。

DIP-8ピンのソケットなので、はんだ付けをやり直す必要はない。電源を切り、向きを間違えないように確認しながら、NE5532Pを取り外してNJM2068DDを取り付けるだけだ。

もちろん、オペアンプの向きは重要である。切り欠きや1番ピンの位置を確認し、間違えないように取り付けよう。

交換作業そのものは非常に簡単だった。

これで準備完了。

お待ちかねの音質変化を確認してみよう。

HAC-03Jのオペアンプ交換で音質は変わった?

今回の交換後に感じた変化は、次のとおりだ。

  • 解像度が高くなったように感じる
  • 全体的に静かになった印象がある
  • 音の粒立ちがよくなった
  • 高音が聞き取りやすくなった
  • 低音の量感はほぼ変わらず、若干締まったようにも感じる

特に印象的だったのは、音の見通しがよくなったことだ。

音の輪郭がはっきりし、細かな音を追いやすくなったように感じる。高音もすっきりとしていて、全体的にクリアな印象になった。

一方で、低音の量感については大きく変わったとは感じなかった。強いて言えば、少し締まったようにも思うが、ここは明確な差として断言できるほどではない。

なお、今回は測定器によるノイズや歪みの測定を行ったわけではなく、交換前後の音を聴いて感じた主観的な感想である。

音量を厳密にそろえたブラインドテストを行ったわけでもないため、オペアンプ交換だけが変化の原因だと断定することもできない。

それでも、私の耳には、NJM2068DDに交換したことで、より解像感のあるクリアな音になったように感じられた。

このあたりは、巷で見かけるNJM2068DDの評価とも重なる部分がある。

NE5532PとNJM2068DD、どちらを選ぶ?

では、元のNE5532Pと交換後のNJM2068DDでは、どちらがよいのだろうか。

これは、最終的には好みの問題も大きいと思う。

NE5532Pの音を聴いて、落ち着きや厚みのある音が好みだと感じるなら、そのまま使うのも十分にありだ。

一方、音の細かな部分を聴き取りやすくしたい、すっきりとした解像感を重視したいという場合には、NJM2068DDを試してみる価値があると思う。

ただし、オペアンプの型番だけで音の傾向が決まるわけではない。実際の回路や使用環境によって結果が変わる可能性はあるので、今回の感想もあくまでHAC-03Jで試した結果として受け取ってほしい。

我が家の場合、HAC-03Jは音楽鑑賞だけでなく、テレビアニメの視聴にも使っている。

そして、家族が重視するのは、音楽の細かな表現以上に、セリフの聞き取りやすさだ。

NJM2068DDに交換した後は、高音がすっきりして音の輪郭が分かりやすくなったように感じたため、今回はNJM2068DDを採用することにした。

まとめ:HAC-03Jはオペアンプ交換も楽しめる小型DAC

HAC-03Jは、HDMI ARCを利用してテレビのデジタル音声を取り出し、テレビのリモコンによる音量操作にも対応できる、便利な小型DACだ。

さらに、ESS Technology社製のES9018K2Mを搭載しているだけでなく、オペアンプがDIP-8ピンのソケット式になっているため、交換を試してみたい人にとっても面白い製品である。

今回は、標準搭載のNE5532PからNJM2068DDへ交換してみた。

私の環境では、音の解像感が増し、高音が聞き取りやすくなったように感じられた。低音の量感は大きく変わらず、若干締まったような印象だった。

もちろん、これは測定結果ではなく、あくまで実際に聴いて感じた変化である。

オペアンプを交換すれば必ず音がよくなる、というわけではない。回路との相性もあるし、標準搭載のNE5532Pが悪いオペアンプというわけでもない。

それでも、手頃な価格でオペアンプ交換を楽しめるのは、HAC-03Jの魅力のひとつだと思う。

テレビの音量連動と音質を両立できるだけでも十分に便利なのに、さらにこうした遊びまでできる。

いやあ、やっぱりFX-AUDIOは、かゆいところに手が届く製品を作ってくれる。

しばらくは、このNJM2068DD仕様のHAC-03Jで楽しんでいこうと思う。

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