バスレフスピーカーを自作する方法|FOSTEX FE-127Eを使った高音質スピーカー

はじめに

アンプを作ったら、スピーカーが物足りなくなってきた。
そこで、今度はスピーカーを作ってみることにした。
この調子だと、スピーカーを作った後はいったい何を作りたくなるのかと心配になってくる。

 

スピーカーユニット選び

深みのある雄大な音のするスピーカーを作りたい。
そこで、素直な音になるというフルレンジのスピーカーユニット1発で作ることにしようと思う。
フルレンジとは、低域から高域までを一つのスピーカーユニットが担当するもののことを言う。
ツィーターやウーファーなどの複数のユニットを組み合わせたマルチウェイスピーカーと異なり、一つのユニットが全周波数領域を担当するので、他のユニットと位相がずれることや帯域が重なることがなく、聴いていて疲れない魅力的な音が鳴るらしい。
その反面、一つのユニットだけでは再生周波数帯域に限界があり、低音が物足りなくなったり、高音が物足りなくなったりするということだ。

まずはスピーカーユニットの口径選びだ。

径が小さい 低音が苦手、高音が得意。φ8cm〜10cmくらい。
径が大きい 低音が得意、高音が苦手。φ16cm〜くらい。

というのが一般的に言われている。
低音ズドンズドンが好きなので、径が大きいユニットにしたいものだが、径が大きくなるとユニットの値段が高くなり、ユニットを入れる箱も容量を大きくしなければならない。
家が狭く、お金もない私は、否応なく径を小さくせざるを得ない。
なんというこの現実。
しぶしぶ現実に見合った大きさの12cmのユニットにすることにした。

ユニットを入れる箱は比較的低音も期待でき箱を小さくすることのできるバスレフ型にする予定なので、バスレフに適したQo値が大きめのユニットをインターネットで探した。
FOSTEX FE-127Eが良さそうだ。
コイズミ無線で一つ3,927円で売られていたので二つ注文してみた。
防磁型ということで、近くに家電製品があっても安心だ。
防磁型の方が非防磁型に比べ低音が鳴りやすいらしいし。

FE-127E FOSTEX

コーンは真っ白なのかと思いきや、少し黄色がかったレトロな雰囲気。
ちょっぴり高級感を醸し出してくれる。
繊維が細かくしなやかな密度の高いESコーンらしい。

FE-127E FOSTEX マグネット部

マグネットは少し小さめだが、バスレフ型を駆動するには十分な駆動力があるだろう。
見かけによらずけっこう重い。

 

エンクロージャーの設計

エンクロージャーとは、スピーカーユニットを納める箱のことを言う。
エンクロージャーには、開放型、密閉型、バスレフ型、ダブルバスレフ型、バックロード型、塩ビ管など様々なものがあり、各箱の形状によって音も様々なようだ。

家が狭いがしかし低音が欲しい我がままな私は、箱を小さくすることができ低音もそこそこ期待できるというバスレフ型にすることにした。

バスレフ型エンクロージャーの設計図

バスレフ型とは、このようにダクトという丸い筒状の穴が開いていて、この穴から低音が強調されて出てくる。
その強調される低音の周波数は、このダクトの径や長さによって固有に決まる。
(ヘルムホルツ共鳴の原理により導かれるらしい)
自分で計算するのは難しいので、「SPED」というフリーソフトを使うと、簡単に計算してくれる。
しかも、ユニットを選びエンクロージャーの大きさとダクトの形状をを入力したらスピーカー出力音圧の周波数特性まで出してくれる。
本当に素晴らしいソフトだ。

スピーカーユニットはFE-127E、エンクロージャーのサイズは我が家の事情から割り出された黄金サイズ。
出力音圧の周波数特性を見ながら、箱の大きさやダクトの形状を微調整していった。

ダクトを自分で作るのは難しそうだったので、既製品のFOSTEXのP-76をそのままダクトとして用いることにした。

FOSTEX P-76
本数……………2本
取付寸法………φ82mm
開口直径………φ76mm
全長……………114mm(ダクト部)
コイズミ無線で2本入り1,396円

spedによるスピーカー設計SPEDによるスピーカー設計

SPEDによるスピーカー設計

各設計はこんな感じ。
ユニットを選んで箱の大きさを自分好みにして、ダクトをちょいちょいっといじればいいだけだ。

偶然にも、FOSTEXのダクトP-76をそのまま使っていい感じの周波数特性が得られた。

SPEDにより算出した周波数特性
(クリックで拡大できます)

FE-127Eの最低共振周波数Fsが70Hzと少し高めで低音が心配だったので、70〜100Hzに少し膨らみを持たせることで、低音に量感を持たせるという期待を込めた設計だ。
因みに、ダクトの共振周波数Fdとユニットの最低共振周波数Fsは同じくらいにするのが良いらしい。

FE-127Eの標準エンクロージャー容量は10リットルだが、設計では少し大きめの16.4リットルにした。
エンクロージャーの容量が大きい方が雄大な音が鳴りやすいという理由からだ。
楽器でも、コントラバスなどの大きい楽器のほうがどっしりした音が出るしね。

理論どおり行けば、素晴らしいスピーカーが出来上がりそうだ。

 

エンクロージャーに使用する木材の注文

本当はエンクロージャーに使用する木材も自分で加工したいものだが、さすがに工具も揃っていない私が作るととんでもないスピーカーになってしまう事は火を見るより明らかだ。
そこで、職人さんにカットしてもらうことにした。

Storio日曜大工応援隊!

というところに、ネットで見積もりをして注文した。

送ったのはこの図面
スピーカーに橋をかけるような感じで板を置き、机にする予定なので、その木材の分も入っている。

橋をかけない方が音には良いが、これで丁度良いパソコン机になりそうだ。
材料はMDFの15mm厚。
MDFは木を細かく砕いてから接着剤で張り合わせた木材だ。
強度もなかなかで、オーディオ用としてもなかなか良いようだ。
何より、反りにくいのが良い。
しかし、木目が無いので、かっこよく仕上げるために塗装に工夫が必要になりそうだ。
送料も含めて1万円出せばお釣りが来るくらいの価格だった。

 

エンクロージャの組み立て

注文してから3週間くらいして、木材が到着した。
この木片からスピーカーが出来上がるのかと思うとなんだか不思議だ。
D.I.Y.の醍醐味という感じがする。

職人に切ってもらった木材

さすがはプロのカット。
仮組みをしてみると、ぴったり吸い付くようにハマる。
プロにカットしてもらってよかった。

MDF材だが、実際目の当たりにしてみると、木というよりはむしろ厚紙のような感じだ。

早速ボンドで接着。
隙間ができるとバスレフの効果が薄れてしまう。
隙間ができるのを防ぐために、ボンドはたっぷりつけて、接着によりはみ出したボンドは拭き取ることで取り除いた。

スピーカー接着中

家中の本たちが総動員され、おもりと化した。

きちんとカットしてもらったので、接着が非常に楽だった。

 

 

内側の塗装、吸音材の挿入

ユニット径が12cmということで、板材に開いた穴がけっこう小さい。
完全に箱が組みあがってから塗装や吸音材をこの穴から入れるのは困難なので、組み立ての途中で塗装や吸音材を入れる作業をしてしまうことにした。

メーカー製のスピーカーは内側を塗装していないものが多いらしいが、塗装しない理由は単にコストがかかるからということらしい。
でも、どうやら塗装をした方が良い音が鳴るらしい。
それに加え、虫が付くのを防ぐこともできる。
何より、板が反るのを防止できる。
これだけメリットがあるのなら塗装しない手はない。

内側塗装に使用したのはアサヒペンのジェルカラーニス。
色は内側という感じの色、ブラックだ。
だいたい600円くらい。

アサヒペン ジェルカラーニス

1液型ウレタン系ニスで、布ですり込むという画期的なニスだ。
布ですり込むのでムラが出にくく、とてもきれいに仕上げることができる。

エンクロージャーの内側を塗装

内側なので、適当に塗っといた。
ボンドの後が醜いが内側なので気にしない。
外側はしっかりやすりをかけてから塗装することにしよう。

さて、ここで吸音材を入れる。
吸音材を入れないと、エンクロージャー内部に定在波ができてしまい、変な鳴きが発生してしまう。
素材には、グラスウールが一般的だが、温かみのある音が鳴るというニードルフェルトにしてみた。
コイズミ無線で500×930×10(mm)サイズで800円くらいを2個購入。

吸音材ニードルフェルト

他にも、ミクロンウールやサーモウールなど色々な種類がある。
各種類により音の雰囲気も様々のようだ。
また、入れる量に寄っても音が変わるらしい。
入れすぎると低音が出なくなるそうだ。
結局、どれを選びどれくらい入れるかは個人の好みだ。

しかし最低でも、定在波を消すために、対面する面の片方には入れておかなくてはならない。
私は低音をなるべく鳴らしたいので、吸音材は最低限の量にした。
六面あるうちの三面に取り付けた。
接着には、お手軽な両面テープを使用した。

スピーカーに吸音材を入れる

だいぶスピーカーらしくなってきた。

 

塗装

吸音材も入れ、エンクロージャー内部が完成したら、エンクロージャーを完全に組み立ててしまう。

組みあがったら、スピーカー作りで最も難しい塗装に挑戦だ。
塗装は見た目に非常に影響する。
この塗装によってスピーカーの高級感が左右されると言っても過言ではないだろう。

きれいに仕上げるには、しっかりとやすりがけをすることが重要とのこと。
暇があれば磨きまくるという単純作業を数日繰り返した結果、エンクロージャーはテカテカになった。
ボンドのはみ出しは、必ず削り出してきれいにしておかなければならない。
ボンドが残っていると、塗装時に残ったボンドの上に塗装がのらず、大失敗してしまう。

下地が完成したところで、いよいよ塗装だ。
我が家は黒と白のモノトーン調なので、エンクロージャーもブラックにすることにした。
木目を生かした仕上がりにしたかったのだが、MDF材には木目がないので、ラッカーで真っ黒に塗りつぶしてしまうことに。

格安ラッカー

使用したのは近くのホームセンターで格安で販売していた、アトムカラーのラッカースプレー。
一本220円だった。

殺人現場と化したベランダ(スピーカー塗装中)

ベランダにゴミ袋を覆い、そこを作業場とした。
まるで我が家のベランダが殺人現場のようになってしまった。

スプレーは思った以上に飛び散るので、こんなにもというくらい飛び散り作戦を講じておかなければならない。

ラッカー(黒)をMDF材に散布してみてびっくりした。
吸い込む吸い込む。

結局、ラッカー(黒)を4回散布しても、綺麗に塗装皮膜をつくることはできなかった。
3本もラッカーが空になった。
ラッカーが垂れてムラができてしまったし、有機媒液が臭いわで散々だった。
まるでシンナーを吸っているかのようだった。
黒い霧も散々でベランダがうっすら黒くなってしまった。

ここまでくればヤケクソで、クリアラッカーも勢いで2回散布してみた。
黒のラッカー塗装皮膜がきれいに仕上がっていないので、当然仕上がりはムラムラで安っぽくなった。
下地塗装膜をしっかり整えてから散布しなければ、やはりきれいに仕上がらない。
そもそも、クリアラッカー仕上げは、光沢感に深みが無く安っぽい。

もう全てを投げ出してしまいたかったが、せっかく職人さんに木材をカットしてもらい、そこそこのお金を叩いてここまで来たことだし、もう少し頑張ってみることにした。

内側に塗装したブラックのジェルカラーニスが大量に残っていたので、こいつをラッカーの上から重ね塗りしてみることにした。
ラッカーに重ね塗りして、ラッカーが溶けてしまわないか心配だったが、もうヤケクソだったのでとりあえず塗りたくってみた。

救世主ジェルカラーニス

上の写真は、ラッカーの上にジェルカラーニスを1回塗った直後。
奇跡的にとてもきれいにのってくれた。
やってみるものだ。
ジェルカラーニスは困った人への救世主だと思った。

ジェルカラーニス

やすりがけ(♯1200)

ジェルカラーニス

やすりがけ(♯1200)

ジェルカラーニス

投げやりにされたエンクロージャーは、なかなかきれいに仕上がった。
ピアノ仕上げに近いテカテカだ。
十分満足できる出来だ。
ジェルカラーニスを試してみて良かった。

今になって思うが、MDF材はサンディングシーラーで目止めをしてからジェルカラーニスを繰り返し塗ると良さそうだ。
これなら、スプレーを使うことなく、とても綺麗に仕上げられると思う。

間違ってもいきなりラッカー塗装はしない方が良い。

 

ユニットの取り付け、はんだ付け

ついに、わくわくするユニットやスピーカー端子の取り付けだ。
スピーカー端子には、見た目を重視してコイズミ無線で2個セット1000円で購入したものを使用した。

金ぴかスピーカーターミナル

バナナ端子にも対応で、金メッキがかっこいい。
スピーカー端子は丸いものにした。
取り付けのためのエンクロージャーの穴も丸型にすることができ、四角い穴を開けてもらうのに比べカットの値段を安くすることができる。

スピーカーユニットとスピーカー端子をスピーカーケーブルで繋げた。
ここだけ、はんだ付けが必要になる。
スピーカーケーブルにはFOSTEX SFC-80を使った。
220円/mという安価だったが、音は悪くないらしい。
これもコイズミ無線で購入。

スピーカーケーブル FOSTEX SFC-80

最後に、ダクトを取り付けて完成だ。

FOSTEX ダクト

両面テープでエンクロージャーに固定した。
ボンドでひっつけてしまうと、後で外したい時に苦労するだろうという理由から、簡単な両面テープにしておいた。

そしてついに自作バスレフスピーカーが完成!!

FE-127E バスレフスピーカー 完成

ロボットの顔みたいな風貌だが、愛嬌があって良い。
アクシデントが発生した塗装も結果的に上手くいき、自分で言うのもなんだが、なかなかの出来だ。

ユニットの径に比べ、バスレフダクトが少し大きめな感じがするが、これも自作ならではの個性というところだろう。
鯉の口みたいでこれもまたなかなか良い。

 

 

音を鳴らしてみる

自作バスレフスピーカー

いよいよ音を鳴らしてみる。
TA2020-20を使用した自作デジタルアンプに繋いで、自作バスレフスピーカーを設置。

スイッチON!!

レゲエを鳴らしてみたが、びっくりするくらい紙臭い音で、迫力に欠け、安っぽい音だ。
思わず、センターキャップに指を突き刺してやろうかと思った。

2万円ちょっともあれば、カニやら焼肉やらおいしいものがお腹いっぱい食べれるなぁと思いを巡らせながら、我慢して安っぽいレゲエを聴いた。
この徒労感は何だろう。

木材が到着するのを心待ちにしていたこと、苦労して何度もラッカーを散布しては磨いたこと、様々なことがフラッシュバックした。

しかし、しばらくそんな悲しい時間を過ごしているうちにだんだんと迫力が出てきた。
これがエージングというものなのだろうか。
お肌はアンチエージングだが、スピーカーはエージングだ。
指で突いてしまわなくて良かった。
これはなかなか期待できそうだ。

ダクトから重たい低音が轟き出す。

塗料の臭いが薄れるにつれ、音色に艶が現れ、深い音になっていく。

高域 澄んだ高音には度肝を抜かされる素晴らしい表現力だ。これまでのスピーカーの篭り様は何だったたのだろうと思ってしまう。鋭い音も気持ちよく鳴らせるし、シャリシャリ言わず心地良く聴ける。
中域 すごくリアルで、スピーカーとスピーカーの間で小人が生演奏し、歌っているのかと耳を疑う程だ。高域にも言えることだが、とても解像度が高い。ユニットから音が出ているという感じがせず、各音の発信源がたくさんあるという感じがする。
低域 家が揺れるほどではないが、心臓に響く心地よい低音だ。筒で低音が増幅されて鳴っているという感じがしない。男性ナレーターの声の下の響きが、まるで映画館のようだ。良く言えば上品な低音がソフトに響くが、ちょっと物足りないとも言える。

2ヶ月後に追記:隣人への迷惑になるのではというくらい低音が出るようになった。恐るべしエージング。

総じて 高音が澄んで晴れ渡っている。そのために、低域よりは高域にインパクトがある感じを受ける。時間が経てば落ち着いてもっと低音が鳴りそうな印象を受ける。それにしても音がものすごくリアルだ。人の声も楽器の音も本当に本物のようだ。音のバランスと言い、臨場感と言い、映画館に似ていると言うと怒られそうだが、こっそりそう思っている。

 

 

最後に

デジタルアンプ作りが電子工作的なのに比べ、スピーカー作りは大工作業という感じがした。
木材はカットしてもらったので、組み立てやヤスリがけとても楽だったが、塗装が本当に大変だった。
スプレーを塗布するためにベランダを殺人現場のようにしなければならなかったし、MDF材が塗料を吸い込むので何回も散布しては磨くという作業を繰り返さなければならなかった。

だが、完成した後の達成感は非常に大きい。
スピーカーは目に見えて音が鳴るところなので、完成した後に音を鳴らす感動は言葉にし難い程に素晴らしい。
スピーカーを自作してからは音楽を聴くというよりは、自作スピーカーから鳴っている音を聴いているような状態へと化すくらい、自作スピーカーに酔うことができる。

高音質デジタルアンプの自作方法|TA2020-20|20万円のアンプを1万円で超える
Tripath社TA2020-20というICを使った自作デジタルアンプ。回路図を含む作例の紹介や、ブラックゲート等のコンデンサの音質紹介、ポップノイズ対策の改造例等を紹介します

音楽を聴いている時間は、自己満足に酔いしれて、とても安らかな気分になれる。

●お役立ちリンク

Storio日曜大工応援隊! オンライン見積もりができる。図面を送ると、図面どおりに正確なカットをした木材を送ってくれる。さすがはプロという出来栄えだ。
コイズミ無線 自作スピーカーに必要な部品がほとんど揃う。私も、ほとんどの部品をここで購入させてもらった。

夜の自作バスレフスピーカー

遺言として書き残しておきます。
MDF材にはサンディングシーラー等で下地を整えておいた方が良い。
間違っても直接ラッカーをスプレーしない方が良い、底なし沼のように吸い込む。
綺麗に簡単に仕上げるなら、ジェルカラーニスがおすすめ。

この世に一つだけの素敵なスピーカーを!

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